2006年05月17日

耐震偽装問題を考える


2006年4月26日、耐震偽装問題の関係者が逮捕された。昨年11月17日に国土交通省が、首都圏での21棟にのぼる構造計算書偽造物件を発表して発覚した事件であるが、果たしてこれで一件落着に向かうのだろうか。実際逮捕容疑をみても、偽装行為に直接関係する内容ではない。このような別件逮捕から、きちんとした解決へ果たして向かうのかどうか、全くもって疑問である。

逮捕された8人(呼称略)

【建築士法違反容疑】
姉歯秀次(48) 元1級建築士
秋葉三喜雄(46) 建築デザイナー

【建設業法違反容疑】
木村盛好(74) 木村建設社長
篠塚明(45) 同・元東京支店長
森下三男(51) 同・元専務
橋本正博(48) 同・元常務

【電磁的公正証書原本不実記録容疑など】
藤田東吾(44) イーホームズ社長
岸本光司(66) 司法書士・同社元監査役

まず姉歯氏の罪状だが「1級建築士」の名義貸しである。書類に記載する資格と名前だけを貸してお金をもらうということだが、仕事の流れの中でこのような状況になっている人達は結構いるのではないかとも思う。厳密には罪なのだろうけど、倒壊する建物を平気で申請する事に比べればずっと小さな罪だ。さらに木村建設は粉飾決算、イーホームズに至っては資本金の水増しという、経済問題かと思えるような理由である。

本当は木村建設が姉歯氏に圧力をかけたのか、ディベロッパーやコンサル会社が建設会社に圧力をかけたのか、我々はこのような事実が知りたいのである。イーホームズはただのぼんくらで確認申請の間違いを見落としたのか、それとも民間検査機関に確認業務をさせることに問題があったのか、こうした社会問題としての偽装事件を早急に論じて欲しいのである。しかし、被害者の気持ちを抑えるためだけのアリバイづくりのような今回の逮捕は、この偽装事件の本質を隠蔽していくような気がする。「官から民へ」の一環として確認検査機関が設立されたのであるが、日本の確認業務に時間がかかること、その煩雑さに対してアメリカが圧力をかけた結果とも言われている。ならば法律を作り施行している国の責任はどうなるのだろう。民民問題として片付けられない問題がここには大きく横たわっている。

そして本日 5月17日、マンション販売会社「ヒューザー」社長、小嶋進社長(52)が詐欺容疑で逮捕された。耐震強度が不足していることを知りながらマンション販売を行ったというのが詐欺の内容である。確かにマンションが引き渡される ことがなければ、入居者が多大な被害を受けることは防げたであろう。そのかわりヒューザーは倒産し、建設費を支払われない工事会社、その下請け会社も連鎖倒産したかもしれない。結局、誰かに負債が降りかかるのである。

この耐震偽装という問題は、姉歯氏が勝手に構造計算書を偽造した個人の犯罪なのか。もしもそうだと結論するなら、彼をそこまで追い込んでいった建築業界に踏み込まねばならない。構造事務所だけでなく、意匠、設備事務所もあまりにも安い設計料しか支払われないため、なんとか継続した仕事を受けるためにクライアント側にばかり顔を向けてしまう。こうした事情を見ずして、問題の解決は行えない。一方、ディベロッパーやコンサル会社が躯体コストを指定するような圧力をかけていたとするなら、それは明らかに耐震性を犠牲にしろと言っているに等しい。その時は、彼らこそが犯罪の主体である。建設会社も姉歯氏もそれに従っていたにすぎないからである。警察はこのあたりの事情を果たして明らかにできるだろうか。

だが犯罪の主体が明らかになったところで、被害にあったマンション購入者やホテル事業主に対して賠償金は支払われるのか。たとえ裁判が迅速に行われてその賠償責任が明らかになったとしても、名前が挙がっている当事者は、誰一人として被害者に対し賠償できる能力はないであろう。結局、被害者は国や地方公共団体からのわずかばかりのお見舞い金しか手にできず、大きな負債を背負って生きていかねばならない。しかしこの問題は、地震などの自然災害ではないのだ。人間が引き起こした犯罪であり、それらを防ぐ役目の確認検査機関が全く役立たなかったのだ。そして検査機関が国に認定されている以上、国は彼らに対し管理責任がある。「法律は確認業務は申請者の善意や能力を前提にしている」などと言っている者もいるようだが、法律に書かれていない行政指導を事細かに受けた経験のある私などは「今さら何を言うか」と怒りすら覚える。申請者の能力を信じているのなら確認など行わず検査を厳しくすればよいし、保証も含めた責任を果たすなら保険会社のような審査をして建築主や建物購入者を守るべきなのだ

この耐震偽装問題の根は深い。建築設計と建築施工が明確に分かれていない日本的事情も、実は大きく関わっているとも思う。だが被害にあった人達にはそんなことは関係ない。安い物件に飛びついた購入者の自己責任だとは決して言い切れない問題が潜んでいる。犯罪がどのように立証され、賠償責任が誰に課せられるかは分からないが、確認業務という公的な機関が関わっている以上、とりあえず国が責任を認めて何%かでも被害者に対して保証するのが道理なのではないだろうか。


投稿者 kitazawa : 17:06 | トラックバック